文学部投稿論文

河童鳴声考     
 2006/09/23

河童大学学長兼文学部長  佐々木 篤

 ・河童の鳴き声は?

 2005年の夏、北海道札幌市の定山渓温泉で開催された河童連邦共和国かっぱサミットの席上で質問を受けました。
 「河童の鳴き声はどんなですか?」
 その質問の前に、私にとっての河童とは、『動物学的な実態ではなく、心がはぐくみ創るあげるもの』と説明をしていて、その後の質問だったので、(何を聞いていたんだ)内心、ちょっと腹が立ちましたが、
 「河童は心が創るものですから、その人なりの河童の鳴き声でよいのではないでしょうか」
 と、とっさに答えました。でも、どうにも気持ちが良くありませんでした。この答えはちょっと違うと感じていたからです。

 そこで、その後のこの1年間、河童の鳴き声について考え続けていました。論理的な説明がしたいと思ったからです。
 ようやく、私なりの結論に達したので、河童の鳴き声について論証してゆきましょう。

 ・河童の『化けもの』上の分類

 河童は実態ではありません。一般に、実態ではない想像上の、しかも、普通とはちょっと変わったもののことを、『化けもの』と言います。便宜上、この名称を、実態の良く解らない未確認生物体の一般称として考えってゆきます。
 『化けもの』は、大きく分類すると3種類に分かれます。

 『幽霊』
 『妖怪』
 『怪獣』

 です。

 『幽霊』とは、人の魂に起因するものです。その特徴は、

 @現れるのが深夜であること
 A一般に特定の人を対象に出現すること
 B怨みがエネルギー元であり、性格が陰気であること

 一方『妖怪』は2種類に細分できます。一つは、人の形に近く、言葉も話す類人型妖怪です。そしてもう一つは、物から発生する物質変化型妖怪です。例えば、破れ傘の妖怪や下駄の妖怪などがそれです。

 『妖怪』の共通した特徴は、

 @現れるのが、俗に「たそがれ時」と呼ばれるような、薄暗い時刻から深夜、そして、やはり薄明かりがさす「あさぼらけ」までが圧倒的に多いこと
 A特定の人よりも、特定の場所に出現すること
 B人をからかったり、騙したり、脅かしたりと、愉快犯的な性格をもち、陰気な妖怪もいるが、陽気な妖怪も多くいること

 そして最後に『怪獣』の特徴です。

 @現れるのに時間は無関係。昼間でも出現すること
 A人に取り付くことも無く、場所も特定しない。むしろ、活発に動き回ること
 B知能指数が低く、ほとんどの場合、その性格はわからない。単に凶暴性の程度に差があるくらいのこと

 さて、『化けもの』を、このように、3種類に分類した後に、我らが愛する河童は、どの分類に属するのか。そうです。『類人型の妖怪』ですね。

 ・鳴くということ

 次に、『鳴く』という現象について考察してみましょう。
 一般に『鳴く』とは、鳥や獣など、その種類により特定される、声のように発声される音のことです。
 さて、人は鳴くでしょうか。鳴きません。まだ言葉を理解しない幼児は、『泣く』ことはあっても『鳴く』ことはしません。幼児の『泣き声は』一首の言葉です。大人も泣きます。泣く時には、音もだしますが、その時に発する音は、『嗚咽』ではあっても、人の『鳴き声』とは言いません。
 一方鳥や獣は『鳴きます』。同じ種類の鳥や獣ならば、その生息する地域により、微妙に差はあったとしても、ほぼ同じような音をだして『鳴きます』。それを『鳴き声』と呼ぶのです。
 河童は『類人型妖怪』です。言葉を話します。となると、人とほぼ同じということになります。つまり、河童も『泣く』ことはあっても『鳴かない』のです。よって、河童に『鳴き声』はないのです。

 ・例外として、『鳴く』河童もいる

 例外はどこにでもあります。河童の鳴き声が先にあり、その声に似せて河童の呼び名が付いている地域があります。そんな地域の河童は『鳴く』ことになっています。
 このあたりの検証と研究は、昭和の初期に、柳田國雄先生が『妖怪談義』ほかの書物に書き残しておられます。それらの、『鳴き声』を持った河童を調べると、そのほとんどが、『何か怪しげな声が聞こえる』ということから始まり、『あれはきっと河童に違いない』として河童となった伝承がほとんどというのが、先生の研究の結論と私は読んでいます。
 『音』が主なのですから、誰もその姿を見ていないのです。早い話が、その『鳴き声』の主は、『河童』でなくても良かったのです。歳を経た『かわうそ』でも、水泳中の『狸』でも良かった。ただそれが、たまたま、水辺に近かったりして、『河童』ということになってしまった。そんな事例の『河童』が『鳴く』のです。
 もともとの『鳴き声』の主は、渡り鳥であったり、声の大きさからは想像できないくらいに小さい(だから発見されない)昆虫だったりするのですから、その『鳴き声』に統一性はありません。地域によってさまざまな『鳴き方』をします。

 ・結論です

 『ごく特殊な例を除き、河童は鳴かないし、統一した鳴き声も無い』

 ただし、『笑い声』はあります。河童仲間が集まり、時として奇声を上げています。あれは、河童の『鳴き声』ではなく、『笑い声』であり『おたけび』なのです。




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