妖怪学入門
第五章 妖怪研究の質的考察
 一般的に認識されている歴史は、主に政治の歴史なので、例えば日本史の場合、東京(江戸)でも、大阪でも九州でも陸奥でも、独自の地方史は有るとしても、全体としては、あまり大きな体制の違いや、関わっている人たちの時代認識に、大きな違いは有りません。しかし、それが、風俗や人の文化認識となると、地域の違いや、身分を含めた職業の違い、男女の差や教養の差などにより、大きな認識差が生じます。
 テレビや放送はもちろん、印刷すら未発達な時代では、その違いは、文化の中心部から演習部へと、水の波紋のように広がり、かつ、それに要する時間は大きく、数十年から、場合によっては100年以上もズレることもあるのです。
 妖怪に対する認識も、江戸や大阪などの大都会と、田舎とでは大きく異なります。
・もののけ(妖怪変化)の認識
 私達日本人は、妖怪変化の元(本体)を、以下の五種類で認識しています。
 @人A動物B植物C器物D自然物や自然現象
 それぞれの本体が、なにやら解らない不思議な力を得て変化する、それが妖怪であり、その話が、伝承や民話となって伝播されるのです。
・年代的な認識
 時代により、不思議を感じる感性が異なっています。妖怪を理解するには、その違いを、正確かつ明確に理解する必要があります。理解を性格にするため、大きく6段階に区分けして考えることが必要です。
 @太古A平安・平城京時代であり、仏教思想が一般に広まる前(貴族社会では仏教が信じられていたが、一般庶民に広まるには数百年かかっている)B仏教が普及してから戦国時代まで)C江戸時代D明治維新から戦前までE戦後〜現在まで
・地域的な認識(都会と田舎)
 妖怪伝承を研究するにあたって、それが、都会の伝承なのか、地方の伝承なのかを区別することも重要です。都会と田舎とでは、生活環境に対する常識が大きく異なるからです。
 地方の怪異現象は、音や光など自然現象的な要素や、動物や植物から受ける感覚が元になって、妖怪と認識されている場合が多く、都会では、人間関係や噂話などの伝聞が、流布される過程で、妖怪化することが多く見受けられます。都市部では、加えて、意図的、人為的な創作(商業的な宣伝や町おこしなどを目的とした)が関与したと、疑われる伝承も見られるのが特徴的です。

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