妖怪学入門
第七章 妖怪の名士たち
・鬼
 日本の妖怪として、最強かつ最初の存在として登場したのが、『酒呑童子』です。伝承によると、陰陽師である安部清明の占いにより、正歴三年、一条天皇の勅命によって、大江山に住む『鬼』を退治する討伐隊が組織されました。その『鬼』の頭領が、『酒呑童子』なのです。
 『鬼』は、怨念を持って死んだ人や、恨み心に取り付かされ、気が狂い、生きている人が変化した存在であると信じられていました。つまり、人間が変化した妖怪です。特に『酒呑童子』については、人の子として生まれ、成長するに従い、『鬼』に変化していったとさてています。しかも、普段は人の姿(童子)をしているが、怒ると、『強大な鬼』の姿に変わるとされています。
 後世(江戸時代)に現れる『幽霊』も、怨念を持って死んだ人の霊ですが、あくまでも、特定の恨む相手にだけ祟る、陰湿性が特徴ですが、『鬼』は、怨念が狂気となり、不特定の人間にまで、暴力を持って仇名すところが、大きく異なるのです。
・天狗
 平安時代に登場した『天狗』は、現代人が一般にイメージする『天狗』とは異なっています。最初の『天狗』は、鳥が変化した物です。人間よりも小さく、羽が生えています。つまり、『からす天狗』なのです。
 『からす天狗』は、密教が中国から伝来するとともに現れています。比叡山などで修行する僧侶を、たぶらかし、堕落させるために出現する妖怪なのです。
 天狗は、僧侶達に悪さを仕掛けますが、高僧の法力によって追い払われてしまう存在なのです。仏教と、その霊験を、広く民衆に教えるために、僧侶達によって創作されたのが、天狗なのです。
 ちなみに、山伏の姿、鼻の長い、赤い顔の天狗は、いわゆる『大天狗』であり、ずっと後の時代(江戸中期以降)に、キャラクターとして創られた存在です。
・幽霊
 平安時代は、霊の存在は信じられていました(源氏物語にも、生霊が登場します)が現代人が持つ『幽霊』のイメージとは違っていたと思われます。
 江戸時代になると、現代ほどではないにしても、科学的な知識が広まってきます。少なくとも、教養のある武士階級などでは、物や動植物が化けた妖怪などは、あまり信じられなくなってきました。その代わりに生まれてきたのが、哲学的、精神的な存在である変化。つまり、怨念を持って死んだ人の霊魂が、人に見える姿となった幽霊が、新しい恐ろしい物、妖怪の一種として定着し、現在に至っています。
・河童
 水は、人にとって必要なものですが、自然そのものであり、恐ろしい存在でもありました、そこに、水棲物の妖怪が生まれるのは、自然なことです。
 全国各地に、いろいろな水棲妖怪が存在しますが、それらが、江戸末期から明治時代にかけて、集合整理され、イメージ統一した存在が、河童なのです。

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