河童から貰った名刀 福島県中通り地方 福島城に須貝権六という武士がおり、馬まわり役をつとめていました。 ある年の夏、下僕が、権六の愛馬を川で洗っていると、突然馬は何かに驚いたようすで、水中から飛び上がり、家に帰ってしまいました。 その夜のこと、馬小屋から訴えるような声がしました。馬小屋に行って見ると、小屋の隅に河童がうずくまっていました。 「私は、阿武隈川に住む河童ですが、陸上では何をすることもできません。なにとぞ、川にお放ち下さい。お礼に名刀を差しあげます」 そこで、河童を川に放ってやると、翌日、河ばたに大刀がおかれてありました。須貝家では、この刀を水虎と名づけ、代々の家宝としました。また、その後、家中の水難はなくなったということです。 (未来社版『日本の民話』より) 解説:全国的に分布する『河童駒引』の一つですが、河童は金物を嫌うとの定説が広く流布しており、金物である刀を御礼にするこの伝承は、珍しいパターンと思います。 |
かっぱ火くんろ 福島県郡山市 むかしあるところに、お爺さんがいて、親類の御祝儀招ばれに行ったと。ほして御祝儀があって、招ばれて行った帰りに、ほろ酔いきげんで帰ってきたらば、大川のほとりに、かっぱが手ぬぐいぱっさりかぶって化けで居だ。ほうすっじど、自分でも気持ちが悪れがら、惜しい賛は考えた。獣やなんかは、火ほど恐ろしいものないんだから、かっぱに、「たばこの火くんろ」といった。そうすっど、かっぱは、「いやいや」て逃げて行くわけなんだ。 どこまでも追いかけらっじゃわけで、川の中さ入ってしまった。そして、その家の便所さ来て、隠れていた。人が入るたんびに、ちょこちょこやっていたんだ。そんで、便所さ、化け物が出るとなった。 よくよく調べたら、かっぱが仇を返してきたていうんだべ。むかしがさけた。 (ぎょうせい社版『日本の民話』より) 解説:河童が火を怖がり、しかも、「火をかせ」と言うだけで逃げる。面白い設定です。後半の、便所で尻を触るはなしは、他の地域でもみかけられます。『むかしがさけた』で終わるのは、遠野の『どんどはれ』と同じなのでしょう。 |
かっぱの知恵 福島県中通り地方 西白河郡泉崎村の阿武隈川の流れの中に、水が深くよどんでいるところがあります。ここには河童が住んでいて、馬を引き入れるとされているので、あたりの人々は、馬を野放しにはしないのですが、佐川という人が、駿馬を持っていて、 「わしの馬は、駿馬である。かっぱなどにびくともしない」と、わざと、馬を放ちました。 これを見つけた河童は、馬を引きずり込もうとしたのですが、さすがの駿馬です、逆に引っ張られ、佐川のところにつれてゆかれました。 佐川は、捕らえられた河童に向かって、 「お前の宝物をくれるのなら、命を助けてやる」と言ったのです。 かっぱはしかたなく、ぴかぴか光る玉をとりだし佐川に渡しました。 宝の玉を手に入れた佐川は、玉に、男の子をさずかるように祈ったところ、めでたく、男の子が生まれました。ところが、この男の子は、15歳になっても立つことができませんでした。ある日、子供が言いました、 「宝物の玉の箱を背負わせてください、もしかすると立てるかもしれませんから」 言う通りに背負わせると、不思議にもむっくりとおきあがりました。子供は箱を背負ったまま走り出し、瀬知房(せっちりほ)淵へはいってゆきました。そして、水の中から声が聞こえてきました。 「玉を取り返すことができたぞ。わっはっはっ……」 (未来社版『日本の民話』より) 解説:これも『河童駒引』の亜流です。最終的には、人間よりも、河童が勝ってしまうという、逆転の結末が面白い伝承です。 |