河童の片腕 岐阜県飛騨地方 河合村に長平という百姓が住んでいました。その長平さの家に、今年は珍しく見事なきゅうりができました。かかさは大よろこび、毎日こうざ(背負いかご)に一お、ねぎって来ては、冬まわしに塩をたくさん入れて漬けていました。 ある朝、きゅうり畑に行くと、すんなりと育ったきゅうりが一本もなく、曲がったきゅうりばかりでした。 次の朝も、その次の朝も、へぼきゅうりばかりでした。 「こりゃ、やっぱし誰かが取りに来ているんじゃな」長平さは、見つけて捕まえようと朝早く見回りに行くと、二つくらいの子供とも見える、あか黒い裸のものが畑にいます。長平さは、棒をとって、なぐりつけ、帯で縛って家まで引きずってきました。 村の人たちは面白がって、おおぜい見物にきました。台所ではたらいていた女が、ふざけて、手に持った水柄杓で頭を殴りつけたところ、水が怪物の頭にかかりました。すると、とつぜん元気になり、怪力を出してあばれ、強くしばってあった左腕を残し、川へと逃げてしまいました。 翌朝、長平さが畑に行くと、昨日の怪物が来ていて、 「今日限りきゅうりを盗むなど、わるいことはしませんので、片腕を帰してください」 と頼んだので、返してやることにしました。 次の朝、長兵が畑に行こうと、家を出ると、壁際の鉤(かぎ)に、川魚がかけてあります。その翌日にも魚がかかっていました。 「ははあ、がおろ(河童)が、左腕を返しもらった礼に持ってきたんじゃわい」 毎朝の川魚は、何年も続きました。 ある時、鉤が古くなったので、もっとたくさんの魚がかけられるようにと、大きな鉄製の鉤に交換したところ、翌朝からは、もう川魚の贈り物はなくなったとのことです。 (未来社版『日本の民話』より) 解説:河童の一般的なイメージである、『きゅうりが好き』と、『金物が嫌い』との二つが含まれている民話です。 |