岡山県
河童の骨つぎ                    岡山県吉備高原地方

 むかし、久留米町の山北下に、神谷一学という、めっぽう人のよい、おじいさんのお医者さんがいました。
 ある夏の朝早く、雫山のふもとを通りかかりました。濃い霧につつまれ、あたりはよく見えないくらいでした。なにやら、奥のほうから、うめくような声が聞こえました。「クヮックヮ」。「ひょっとしたら、山の神の落とし子かも知れんで」思ったのですが、生まれつきもの好きなおじいさんです、近寄って行きました。
 行くにつれ、ひどく生臭い匂いがしました。「こりゃ、山ノ神なもんか」思いましたが、「わりゃ何もんなら?」と声をかけると、「クヮックヮ。クヮックヮ」。もういちど、「わりゃどがいした?」すると、「足をけがして、仲間からはぐれたんでござんす」。それを聞くと、医者の一学じいさんです。足を手に取り、治療をしてやりました。
 その都市の秋です。一学さんの孫が、高ハデから落ちて、肩の骨をはずしてしまいました。一生懸命治療したのですが治りません。すると、「トントン」表戸をたたく音がします。戸をあけると、河童が立っていました。河童は家に入り、孫の枕元で、その腕をとって、曲げたり伸ばしたり、すっかり直してくれました。それから河童は、一学じいさんの手をとり、秘伝の骨接ぎ術と、よく効くこうやくの造り方を教えてくれました。その後、神谷の家に、河童直伝の骨つぎや『奇妙きょう』という薬が伝わったのです。
   (未来社版『日本の民話』より)

解説:『河童の薬』の変形ですが、いたずらの侘びにではなく、人間へのお礼から、骨接ぎや薬の製法を教えた話になっているところが、ユニークです。