愛媛県
河童の詫証文                   愛媛県東宇和郡

 これも、昔あったげな。下相(おりあい)の寺の下に、がやの淵という大きな淵がありました。
 ある日、お寺の小僧さんが、馬を引いてきて、淵の草だば(やぶ)につないでおきました。すると、淵のえんこ(河童)がこれを見て、手綱を胴に巻きつけ、淵にひっ込もうとしました。馬は驚き、前足をつっぱったり、たて髪を振り乱してがんばっておりました。その時、小僧さんがやって来ました。小僧さんは、手綱を持って引っ張り上げようとしましたが、どうにもなりません。そこで、落ちていた杭をとり、馬の尻をたたきました。馬はたまげて跳ね上がり、その拍子に、淵の中から木のかぶたみたいな物がついてあがり、そのまま馬に引かれてお寺までひこずられて行きました。
 寺では、さわぎを聞きつけた和尚さんが出てきて見ると、それはえんこでありました。「よし、わしがこらしめてやる」和尚さんは、えんこの綱をといて、手首をくくってしまいました。
 えんこはしくしくと泣き出し、「もう決して悪いことはせんけに、こらえてやんなはい。証文を書きますけに」えんこは、指を切って、くずまいの葉に証文を書きました。それから、下相ではえんこも悪さはせんようになりました。また、子供のお尻をふくのにも、くずまいの葉ではふかないようになったそうです。
   (未来社版『日本の民話』より)

解説:『河童駒引き』と、『河童の詫証文』の合体民話です。また、近在
の地域では、『くずまいの葉』でお尻をふくのに、下相地域は使わないと、特異性を説明しているのも、面白い民話です。