種子島
河太郎の日魚                   鹿児島県種子島

 西之表の甲女川(こうめごう)は、種子島でいちばん大きな川で、橋が二つかかっています。川口に近い方が天神橋で、その上がかもめ橋です。かもめ橋のあたりで、川は大きく北に曲がり、深い淵になっています。その西側に岩立という丘があり、松が何本も立っています。そこに、小さなわら小屋をつくって、甚吉というじいさんがひとり住んでいました。
 ある年、大雨が続き、甲女川があふれ、田畑は水びたしになりました。そうしたなかで、河太郎がたずねてきました。「大水で、おれのあなの口になにかつまって出入りもできん、取り除けてくれ」とたのまれたのですが、大水では手の付けようもありません。ことわったのですが、何度もたのまれ、とうとうひきうけました。
 用心しながら水にもぐってみると、あなの口に「もーが」がはまっていましたので、とりのけてやりました。河太郎は喜び、「毎朝日魚(ひざかな)をいけどってきてやろう。しかし、人にはいうてはいけんど」
 それから毎朝、わら小屋の壁に大きな魚が一匹ずつかけてありました。甚吉じいさんはうれしくて、つい、人にしゃべってしまったところ、それっきり魚はかけられなくなりました。
   (未来社版『日本の民話』より)

解説:水の中は得意のはずの河童が、人間に水中作業を頼むと言うのも、ちょっと不可思議です。お礼に魚をくれるという話は、各地に類例があります。