河童名所探訪
渡良瀬渓谷鉄道で行く「水沼の河童」


掲載日:2003年6月7日
最終更新日:2004年8月17日


 群馬県の北部、桐生市からまだ北、大間々の隣に黒保根村というところがあります。村の中を渡良瀬川が流れ、この川の淵に、河童伝説があります。

 まだそれほど各地の河童伝説を分析してはいませんので、確かなことは言えませんが、かなりオリジナリティの高い伝説ではないかと思っています。

 また、この上州地区の昔話は、上毛新聞社が、創刊当時に収集をしているらしく、それらを出典とした民話の何点かを読みましたが、上州地区の河童伝説の 特徴としてあげられることは、獰猛で人に危害を加えるタイプの河童ではなく、いたずら好きではあるものの、気の良い親切な河童、しかし、傷つきやすい やさしい心根の河童であると私は思っています。そしてそのことは、この上州の地の人々の性質とも密接に関係しているのではないか、上州人のやさしさに 通じるのではないかと思っています。
「会席膳」を貸す河童


 この村では、古くからなにかお祝い事があると、近在の知人を自宅に呼び、ふるまいをする風習があったそうです。しかも、そのときには、会席膳を使うことが決まりだったのです。
 私の家でも、祖父の代までは、親戚が集まることも多かったからでしょうね、さすがに会席膳ではないにしても、客用の箱膳や、家紋の入った椀などの漆器類と、 おめでたい図柄を、金箔や多色の顔料を使って彩色した酒器などが、庭の倉庫に入っていたものです。
 ある時、まだ若い貧しい男の家で祝い事があり、ふるまいをしなければならなかったのですが、その日暮らしに近い貧農の彼には、 そんな会席膳の準備などありません。
 困った彼が、川のほとり(今では、「河童が淵」と呼ばれています)で考え込んでいると、河童が現れ、彼に「会席膳」を貸してくれたのだそうです。

 この話が他の村民にも伝わり、祝い事があるたびに、貧しい村民は河童に「膳」を借りることが慣わしのようになっていたそうです。
 村民は、「膳」を借り、使い終わると、きれいに洗って河童が淵に返しに行っていたのですが、ある時、心がけの良くない男が「膳」を借り、 そのまま自分の物にしてしまい返さなかったのだそうです。
 そのことがあってから、河童は「膳」を貸してくれなくなりました。おそらく、人間に対する不信感を持ってしまったのでしょうね。今では、河童が淵に行っても、河童には 会えなくなってしまったとのことです。


 この伝承を元に、創作民話を創りました。


 そしてこの河童伝説の「河童が淵」のすぐ近くに、第三セクター「渡良瀬渓谷鉄道」の駅「水沼」があります。

 実はこの駅、温泉のある駅なのです。駅に併設されているのが、「水沼駅温泉センター」であり、このセンターのシンボルが「河童」なのです。

 このセンターをベースとして、河童連邦共和国に所属する「わたらせかっぱ王国」があります。共和国に所属するのは、一般には「村」という名称なのですが、 なにしろ、「黒保根村」にあります。村内に村長が二人いたのでは混乱すると、「王国」という名称になっているのです。

 国ですから、村長ではなく、国王がいます。現在の国王がどなたなのかは知りませんが、以前は、まだ若い、女王だったこともあったと記憶しています。村おこしなのですね。

 かつて、河童連邦共和国が開催する年に1回の河童サミットも、ここで開催されたことがありました。

 水沼に行くには、国道122号線を使って車で行くか、東武鉄道を使うのが便利です。

 浅草から「りょうもう号」に乗り、相生駅で降ります。そこから、以前は、国鉄足尾線と呼ばれていた「渡良瀬渓谷鉄道」に乗り換えるのです。

相生駅ホームとりょうもう号

相生駅
 相生駅から水沼駅までは5駅ほど、所要時間は30分足らずです。片道の料金は430円。

 電車は、通勤通学時間帯でも1時間に3本、日中は1本か2本しかありませんので、時間を確認しておいた方が良いでしょう。待ち時間が有っても、駅前にはレストランが 2軒あるだけ、時間を持て余してしまうでしょうから。

相生駅前

相生駅時刻表
 渡良瀬渓谷鉄道は、その名前のとおり、渡良瀬川に沿って単線の線路が敷設されています。

 渡良瀬川の渓谷美と、ところどころに広がる畑を見ながら、しばしの鉄道の旅は素敵です。

線路と渡良瀬川

1両だけの電車
 水沼駅は無人駅です。ちいさなかわいらしい駅でした。

 それでもホームは2本、上りとくだりのホームは別々になっています。

水沼駅前

下りホームの待合室
 駅の待合室の反対側、越線橋を上り下りした上りのホームの上に「温泉センター」があります。

 露天風呂を始め、数種類の風呂の他に、カラオケの装置や舞台を持った大ホールや個室もあり、仲間や家族と過ごす、そんな保養施設です。

 入り口の右側には、男の子と女の子の「河童」の像(牧野圭一氏デザイン)がありました。

上りホームと温泉センター
温泉センター入り口

男女2体の河童の像
温泉センター受付
入館料:大人500円
温泉センター裏(川)側
 
 この温泉センターで河童サミットが開催された時には(10年ほど前ですが)、かっぱグッズが多数売られていました。なにかかわいい物があれば、買おうと 思っていたのですが、今では数点だけになっていました。ちょっとがっかりですが、なにしろ、人口の少ない村ですし、大々的に宣伝している温泉地でもありませんから、 豊富に揃えても、採算が取れないのでしょうね。

 センターの裏側、河原までの間の庭にある池の噴水には、入り口の河童と同じデザインの2匹の河童が使われていました。
売られていた河童グッズ
Tシャツとマグカップ
川に面した池の河童
 
 「河童が淵」に行ってみました。

 比較的広い河原ですが、水はそれほど多くはなく、釣り人が釣り糸を垂れていました。

 渡良瀬川が大きく蛇行したところにある「淵」は、意外なくらいに明るい感じです。普通、河童が出没する「淵」というと、いかにも妖怪がでそうな、そんな暗い雰囲気の 「淵」が多いのでけどね。
河童が淵
ホームで行き交う電車


 もっと、河童との出会いがあるかと、期待していたのですが、残念ながらあまり河童とは語らいをできませんでした。しかし、新緑の渓谷の美しさは 堪能することができましたので、行ってよかったと思っています。

 まあ、あまりメジャーになり、商業主義プンプンの河童よりは、ひっそりとたたずむ河童もまた良いでしょうね。

 心無い男によって、その心を閉ざしてしまっている「河童が淵」の河童です。

 「もう十分に時間も経ったのですから、そろそろ、現れておいで」

 淵に向かって話しかけてきましたよ。

写真撮影日:2003年6月7日


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