妖怪学入門
第三章 妖怪研究紳士録
 明治以降に活躍した、妖怪研究者とその活動や研究の方向について解説します。
・井上 円了 安政5年(1858)−大正8年(1919)
 東京大学哲学科卒。出版業界で活躍。教育者ではないが、東洋大学の創立者。
 『妖怪』という名称の命名者とされている。
 ほとんどの妖怪現象は、錯覚や誤解、迷信であって、理屈で説明できると主張。その分析結果は、膨大な分量の講義録『妖怪学全集(全六巻:柏書房)』に記載されている。
・南方 熊楠 慶応3年(1867)−昭和16年(1941)
 東京大学中退、米国ミシガン大学中退。正式な高等教育は受けていないが、長い欧米生活中に、独学によって知識を習得。明治初期において、西欧での評価を受けていたただ一人の日本人。ただし、日本の学界からは無視されていた。民間人としてただ一人、天皇陛下(昭和天皇)に直接講義を行った。イギリス流の学術的研究手法を、柳田國男に指南している。世界トップクラスの粘菌学研究者であり、熱心な仏教学研究者(哲学者)でもあり、比較民俗学の先駆者。少年時代から妖怪を好んだ。
・柳田 國男 明治8年(1875)−昭和37年(1962)
 東京大学卒の高級官僚。専門は農政学。国家公務員として勤務しながら、趣味的に民話や伝承を研究した。田山花袋とは親友であったことが知られており、兄も妹も文学者。日本民俗学の祖とされ、その影響力は現在でも絶大であり、ほとんど亡霊のように学会に君臨している。現代の民俗学者の大半は、柳田の理論と自己の理論との比較に終始している。
 妖怪や河童に強い関心を持つていた。若い頃は、その実在性を信じていたようだが、晩年になると、精神性を重視するようになり、実在は明確に否定するようになった。
 『遠野物語』『妖怪談義』『山島民譚集』など、膨大な著作を残している巨人。
・江馬 務 明治17年(1884)−昭和54年(1979)
 京都大学卒。風俗史学の祖とされているが、妖怪研究も行っており、著書に『日本妖怪変化史』がある。
 服装を中心とした風俗史の研究の傍ら、日本人の心にある妖怪変化の正体を、多面的に研究した。妖怪や河童は実在しない。実在を議論することすら無意味と主張している。

 現在も、日本民俗学会の学会誌などに、ときどき、妖怪や河童に関する論文が掲載されており、妖怪学者を自称する研究者も少なくはありませんが、彼らはまだ、確立した権威にはなられていないようなので、ここでは、紹介はしないことにします。

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