妖怪学入門
第九章 現代妖怪考
 日本の妖怪は、日本人の心を映す鏡の一つです。時代とともに変化します。
 かつて、その変化は、地域により時代により、大きな違いがありました。それが、江戸時代中期以降、木版による印刷技術の普及とともに、イメージの均質化が始まりました。特に明治時代に入り、活版印刷機が輸入され、大量印刷が可能になったことと、日本では、横浜から始まった、新聞というニューメディアの流入、その後、爆発的に流行した雑誌刊行ブームとが、文化の均質化を促進しました。日本国内におけるグローバル化が起こったのです。
 明治の中頃から、第一次世界大戦前まで、新聞紙上のコラム欄には、しばしば、各地での『不思議現象』が掲載され、話題になっています。それらの主人公は、広い意味での妖怪が多く、第一次妖怪ブームが出現していたと、言っても良いかも知れません。
 第二次大戦に向けての軍拡時代、しばらくの間は、おとなしくしていた妖怪も、終戦後の復興時代、昭和30年代の『かっぱ天国』ブームから、第二次妖怪ブームが始まりました。
 そして、それに引き続き、映画媒体を使っての『ゴジラ』を始めとする『怪獣』ブームが到来したことは、記憶に新しいことです。日本の妖怪史において、初めて、昼間に出現する妖怪が誕生したのです。
 さて、現代人は、妖怪を、どのように受け取っているのでしょうか。大きく、三つのタイプに分類できます。
 @盲目的信奉者(実在を信じている)A存在意味肯定者(実在を信じてはいない)B理性的啓蒙者(実在を否定することが正しいこと思っている)
 江戸時代は、@タイプの人が主流だったと思われます。明治時代になると、田舎に住む庶民は別として、Bのタイプが言論界の主流となりました。『悪しき迷信は打破しなければならない』とする考え方です。さて、現在はどうでしょうか。私は、Aのタイプが増えていると思っています。実在は信じてい無いが、それが伝わっていることに、精神的な意味と意義を感じている立場です。
 柳田國男が、雑誌に書いています。
「民話や伝承で語られた『事』に、事実が含まれていると考えることは間違いだ。民話や伝承は、伝わっていることが重要であって、『事』を、歴史学的資料として扱うことは間違いである(昭和2年雑誌『民族』)」
「実際のことならば、それは伝わらない、突拍子も無い創作だから、語り継がれ、伝播するのだ」とも、述べています。

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